「こうばしい日々」(江國香織)

こんな素敵なキスができるのであれば

「こうばしい日々」
(江國香織)新潮文庫

今日は「僕」・ダイの
11歳の誕生日だ。
出がけにお姉ちゃんが
プレゼントをくれた。
でもそれより嬉しかったのは
ジルからもらったプレゼント。
去年のクリスマスに
ラブレターをもらって以来、
僕たちは何となく
つきあっている…。

わかっています。
わかっていますとも。
この本は50をすぎたおじさんの
読む本ではないということぐらい。
と、何度も言い訳しながら、
この手の少年少女向け文学を
読みあさっています。
少年少女向けの良い作品を
数多く著している作家の一人が、
この江國香織です。

江國香織は本当に上手い。
若い年齢層の登場人物を描くのが
とても上手いと思います。
彼女の書いた
「大人の恋愛もの」には
あまり手が伸びないのですが、
「ボーイズ&ガールズ小説」には、
ついつい引きつけられてしまいます。

主人公は11歳になったダイ(大介)。
アメリカに来てすでに5年。
日本語よりも英語が得意。
アメリカ人という自覚がある。
ガールフレンドはジル。
ダイと同級生。
積極的な女の子。
このシチュエーションだけでも
ワクワクします。
私のようなおじさん世代だと
「ジャック&ベティ」の
イメージでしょうか。

脇を固める登場人物も味があります。
日本を捨てきれない姉マユコ(麻由子)。
マユコのボーイフレンドで
女の子に対して
かなり寛容なデイビッド。
ケンカしたダイとジルを
仲直りさせる大人感たっぷりのママ。
仕事人間のパパ。
パパの同僚で
ダイを遊びに連れて行ってくれる
島田さん。
ダイのよき話し相手となる
大学生の友人ウィル。

こうした魅力あるキャラクターに囲まれ、
ダイのアメリカでの日常が
描かれていきます。
毎日顔を合わせているがゆえの
ダイとマユコの姉弟ゲンカ。
ママの懐の大きさを
知ってか知らずかのダイの憎まれ口。
日本かぶれのウィルと
アメリカ人化した日本人のダイとの
ちぐはぐな会話。
性格にやや棘のあるマユコと
心の広さを持ったデイビッドの
やりとりと、
それを見ているダイの気持ち。
そして何よりもダイとジルの
子どもらしい交流と恋愛感情。
小学生の段階で
こんな素敵なキスができるのであれば、
その後の人生、
豊かになると思うのです。

そうです。決して大きな事件が
起こるわけではないのです。
でも、きらきらとした一日一日が、
色鮮やかに描かれているのです。

昭和の時代に
日本の片田舎で過ごした私にとって、
あまりにも眩しすぎる本作品。
現代の中学生は
どう感じるのでしょう。
中学校1年生に薦めたい一冊です。

(2018.8.18)

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